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札幌高等裁判所 昭和26年(う)1000号 判決

控訴人 被告人 小林泰造

弁護人 中山信一郎

検察官 木暮洋吉関与

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

本件を岩見沢簡易裁判所に移送する。

理由

被告人及び弁護人中山信一郎の控訴趣意は各その作成名義の控訴趣意書に記載したとおりである。

弁護人の控訴趣意について。

論旨は原判示第二の賍物運搬並びに遺失物横領の点について事実の誤認を主張するのであるが、原審昭和二十六年十月十九日の公判調書には、この点に関する裁判官の問に対し、被告人の答として「その通り間違いありません其の時は私がきの子取りに行つたとききの子を探している中に誰かゞ盗んで来て隠匿した様にも思われた電線があつたので夫れを短く切つて場所を替え二百米程離れた所に隠匿して少しづつ家に運び芦別町市街の古物商に持つて行つて売るべく私の家内と妹に持たせてやりましたら、会社の第一見張所の所で逮捕されたのであります」との供述記載があり、これと昭和二十六年八月二十二日附被告人の司法警察員に対する第一回供述調書(記録一七二丁以下)の供述記載及び吉田晋作成の盗難届(記録三四丁以下)の記録を綜合すると、本件銅線は原判示山林内に架設してあつた三井鉱業所所有の電線を第三者が切断盗取して、これを原判示場所に隠匿しておいたもので、その占有は尚右第三者に属していたこと、及び被告人はこれを不法に自己に領得する意思で運搬したことを窺知するに難くないのである。かように、他人の占有に属する賍物を不法領得する意思を以て運搬するときは窃盗罪が成立し、賍物運搬罪は成立しないものと解すべきであるから、本件公訴事実のうち賍物運搬の点はこれを窃盗罪と認めるのが正当で、又遺失物横領の点は事後処分として犯罪を構成しないこととなるのである。されば原判決が本件賍物運搬及び遺失物横領の起訴事実をそのまま認定したのは、結局証拠の取捨判断を誤り延いて事実を誤認したものというの外なく、その誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、量刑不当を論旨とする被告人の控訴趣意に対する判断をしないで、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十二条により原判決を破棄し、本件については訴因及び罰条の変更を要するため、当審で直ちに判決するのは適当でないと思料するので、同法第四百条本文に従いこれを岩見沢簡易裁判所に移送するものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 藤田和夫 判事 成智壽朗 判事 長友文士)

弁護人中山信一郎の控訴趣意

原判決には、判決に影響を及ぼすこと明かな事実の誤認がある。原判決は、罪となるべき事実第二において起訴状記載の公訴事実と同一の事実を認定して「第二被告人小林泰造は同年八月二十一日頃前同炭山川山林内において隠匿してあつた前同電線約十二貫五百匁を発見したものであるが、氏名不詳者が同山林内に架設してあつた三井鉱業所の電線を窃取して同所に隠匿したものであることの情を知りながらこれを同所より同町字西芦別炭山川三栄興産社宅の自宅まで運搬し且つその頃警察官署に届出でないで着服横領し」と判示している。しかしながら、判示自体及び原審で取調べた証拠に徴して明かな如く、判示電線は前記氏名不詳者が判示山林内に架設してあつた三井鉱業所所有のものを窃取して同所に隠匿しておいたものであつて、これは依然として右氏名不詳者の占有に属しているものと解することが最も妥当である。そして、右氏名不詳者の占有を侵して判示電線をひそかに自己の支配内に移した被告人の所為は、窃盗罪を構成するものであつて、原判示の如く賍物運搬、占有離脱物横領罪が成立する由なきものと思料される。果して然らば、原判決には冐頭掲記のような違法があつて到底破棄を免れないと信ずる。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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